【子育て小説レビュー⑧】伊坂幸太郎「チルドレン」

レビュー

こんにちは。うどんです。

伊坂幸太郎さんの小説、時々急に読みたくなるときってありますよね。

作風が安定していて、登場人物の性格も察しが付くのに、読むと絶対面白くて、読後感が最高に気持ちよくて大好きな作家さんです。

伊坂さんの作品は子育て小説豊富です!過去に読んだものもおいおい紹介していきたいのですが、
まずは、最近読んだシリーズ物の1作目、「チルドレン」です。

こちら、5つのストーリーで構成されていて、はじめのを読んだ時「面白いけど、子育て小説としては紹介できないかなあ」と思っていたんですが、2つ目のストーリーを読むと…

これぞ、子育て小説じゃん!!!!

本のタイトルでもあり、2つ目のストーリーのタイトルでもある「チルドレン」の意味がわかる、そんな話です。

今回もがっつりネタバレしていきますよ~!ご注意ください!!

「チルドレン」は陣内くんの話です

陣内くんとその仲間たち

「チルドレン」の中のストーリーは、全部で5つ。

「バンク」「チルドレン」「レトリーバー」「チルドレンⅡ」「イン」です。

このうちの「バンク」「レトリーバー」「イン」は、陣内くんとその仲間である鴨居くん、永井くん、優子さんが学生時代の話、「チルドレン」「チルドレンⅡ」は陣内くんが家庭裁判所に勤めだしてからの話で、家庭裁判所の武藤くん目線で語られています。

で、このみんなに語られる陣内くん(武藤くんは「陣内さん」)、ほんと無茶苦茶な人なんですが、パンクでロックで、言ってること支離滅裂な割に、流れを変えてしまう力を持ってるという人物です。

というか、そもそも伊坂幸太郎が好きな人は、陣内くんが好きなはず。

陣内くんの友だち、鴨居くんが割と普通の感覚の人物で、感情移入しやすいはず。1つ目の「バンク」では、陣内くん、鴨居くんの2人が初めて永井くんと出会う馴れ初めの話です。

永井くんは、全盲で、その永井くんの彼女が優子さんです。3つ目のストーリー「レトリーバー」は優子さん視点、5つ目の「イン」は永井くん視点で描かれています。

特に、全盲の永井くん視点ていうのは、かなり独特で、優子さんやその他関わってくる人との会話や、周囲のちょっとした変化や盲導犬のベスの様子を永井くんが感じ取りながら話が進みます。
その点でも、不思議な感覚を味わえるお話です。

家庭裁判所の話

陣内くんはパンクでロックな人間なのですが、就職先には家庭裁判所を選びます。そして、ウダウダ言いながら家裁調査官として仕事している様子が武藤くん視点でも伝わってきます。

「チルドレン」「チルドレンⅡ」の中では、家庭裁判所の仕事がとても細かく描かれています。

少年事件担当の陣内くんと武藤くんが行う面接の流れや、その種類など、普段は知り得ないことが描かれています。

さらに、「チルドレンⅡ」では、武藤くんは家事事件担当になります。離婚や養子縁組、遺産分割などの調整を担当し、困っている当事者たちが自ら申し立ててやってくるそうです。

遺産分割もやってくれるの?相続でもめる前に相談すればよかった!!!

「チルドレンⅡ」の中では、離婚に関する調停の様子も描かれています。調停委員の話や、家裁調査官の出番なども説明されています。

離婚の調停って、弁護士が必ず出てくるもんだと思ってたわー
全然知らないこともあるものね。

私が知らないだけかもしれませんが、なかなか面白い世界を知ることができて、それだけでも読む価値ありです!

中高生と大人の関係

家裁の2つのストーリーを中心に10代の中高生が登場してきます。

「チルドレン」の志朗くんは、1回目の面接では父親との関係がどうにも不可解で、とっても気になる子なんですが、その面接以降、出会うたびにだんだん武藤くんとも打ち解けてきます。

これには、大いなる秘密があったのですが、さすがにネタバレ過ぎるのでそれは置いておいて…

武藤くんが街中で志朗くんに出会ったときに、調査官について色々聞かれて答えます。

子どもの非行にも2パターンあって、集団になって、いわゆる「チルドレン」になると別物として悪ふざけしてしまう、そういうタイプ。

そうではなくて、本当に生きるのに苦労している子。

そういう深刻さは簡単には見分けられなくて、だから僕たちは少年たち全員の味方をするほかない。

これは、本当にこんな風に考えてくれている家裁調査官がいるとしたら、そんなステキな話はないですよね。親以外に自分の話をまともに聞いてくれる第三者の存在というのは、10代の子にとってはとても大きいはずです。
というか、そういう存在が、なかなかいなくて、みんな苦しんでいるんだと思ってます。

そして、「チルドレンⅡ」に出てくるのは、武藤さんが担当する年長少年の明(あきら)くん。

明くんも、お父さんとの関係に悩みながら、不倫して離婚する予定の母親ではなく、「不倫されてしまう父親」に嫌悪感を持っています。

親子関係、特に10代の子と親って、単純に仲良しではいられないから難しいよ~💦

子育て中のママ・パパ的視点

「チルドレン」は、親的視点はあまり多く描かれていません。

ただ、「チルドレンⅡ」では、親権をめぐって離婚調停の真っ最中の夫婦にとって、どちらが子どもを育てるのに相応しいか。その難しい判断で悩む調査官の武藤くんに、ヒントをくれる場面がありました。

瞬間的なできごとだったが、僕ははっきりと目撃をした。部屋が暗くなり、演奏が始まり、若者が跳びはねたその時、修二さんは咄嗟にしゃがみ、娘の身体を抱きかかえるようにしたのだ。鞄は放り投げていた。

この「とっさの時に、子供の身を守る行動」というのには、ものすごく納得しました。

言葉ではいくらでも「世話できる」と言えます。

でも、実際に行動に出るかどうかは、どれだけ真剣に子どもを守るつもりでいるかによって、変わってしまいそうですよね。

もちろん、他人の子であっても守る人はいるだろうし、我が子であっても傷つけてしまう人もいるんですが。

「うちの旦那も、離婚や私が死んで、もし旦那1人で子育てすることになったら、覚悟をもって子育てできるのかな?」なんて、考えさせられる話だわ~

まとめ

伊坂幸太郎さんの「チルドレン」を紹介してきました。

愉快な登場人物たちと、家庭裁判所のお仕事の話、10代の若者の話、親の「適性」の話など、子育て中の人にもそうでない人にも響く話が盛りだくさんです。

次は、シリーズ続編の「サブマリン」も紹介していきます!

最後まで読んでいただいて、本当にありがとうございました。