【子育て小説レビュー⑩】垣谷美雨の「農ガール、農ライフ」で農家になりたい夢に胸膨らませる

おしごと

こんにちは。うどんです。

私、実は農家になりたいんです。

といっても、現実的はなかなか動き出せていない、切ない状況です。

というわけで、せっかくなんで農業を目指すような小説を読みたい!ということで、垣谷美雨さんの「農ガール、農ライフ」です!

主人公は、未婚で子なしですが、登場人物にはワーママがたくさん出てきて、「働く女性」「女性の生き方」という視点は各所にちりばめられています。

しっかり、「子育て小説」なのね!

今回も、大いにネタバレしているので、ご注意ください!

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女性ひとりでも農業ってできるの?農業の始め方と女性の生き方を学ぶ

主人公の久美子が農業を志すきっかけ

派遣社員だった久美子は派遣切りにあってしまいます。

さらに、ずっと同棲を続けていた、彼氏のような、友達のような存在だった修に、結婚を前提とした彼女ができてしまい、ふられてしまいます。

そして、仕事もなく家も出ないといけなくなった久美子は、テレビで紹介された「農業女子」に惹かれてしまいます。

そして、完全に心を奪われた久美子は、農業を志すことになるのです。

確かに、農業学校も安いし、就農支援もあるなんて聞いたら、「自分でもできる!」って気持ちになっちゃうよね…

就農までの厳しい道のり

そして久美子は実際に農業大学校に入学することになり、土曜のみのコースを受講、平日はスーパーでアルバイトをする生活が始まります。

同じコースのメンバーの半分は、実家が農家という事実や、農業大学校での講義、実習内容などかなり細かく描写されていて、作者の垣谷美雨さんがいかに丁寧に取材されたのかがよくわかります。

ほんと、自分が本気で目指したいって時にすごく役に立つと思うのよ!!!

そして、半年のコースが終わり、いよいよ就農、というところで、この実家が農家ではないリアル新規就農者組は、一気につまづきます。

「農地が借りられない」

これが新規就農者がまずぶち当たる壁。

今でこそ、「貸し農園」なんてのも商売として成立していますが、本当に農業で生計を立てていこうと考えている人にとって、農地、それもちゃんと作物が育つ、優良な農地が手に入るかどうかは、まさに死活問題です。

久美子も実際に自分で足を運び、頼み込み、かなりの努力をします。

正直、一般の読者にとって、この辺りはどこまで響くのか疑問ですが、私にはとても響きました。

そして、農家のおばちゃん、富士江さんと出会い、なぜ農家が使ってもいない土地を簡単に貸してくれないのか、その理由を教えてもらいます。

「農地を貸さない理由は星の数ほどあるさ。自分たち夫婦が汗水たらして初めて買った農地なら愛着があるだろ。他人には任せたくないと思って当然だよ。それに農地付近に開発計画が持ち上がれば高値で売れるかもしれないと思う。なんといっても、一度貸してしまうと農地を取られたような気がするのさ。」

「あんた、いっぺん逆の立場になって考えてごらんよ。ここらの相場だと、一反の賃料は年にたったの一万円だ。都会から来た若いもんに貸したりしたら、どんなトラブルをされるかもしれないのに、たかが一万円欲しさに貸す人間がいると思うかい?」

このあたり、もうめちゃくちゃリアルです。

私自身、かつて、農家の方々のお話を聞く機会があったのですが、どれだけ求められていても農地を「貸せない」「売れない」農家の気持ちっていうのはよくよくわかります。

それでもめげないってところが、久美子が就農できた大事なポイントなんでしょうね。

その後も、富士江の紹介でなんとか農地を手に入れ、富士江にしっかり畑作り・野菜作りを教えてもらいます。

子育て経験女性たちの「女性の生き方」論

久美子は、富士江以外にも複数の人に助けてもらうのですが、その多くがワーママ、あるいはかつてのワーママです。

① アヤノ(久美子の先輩、憩子の母)
久美子の先輩、憩子の母親。アパート経営をしていて、久美子もアヤノの持つアパートの一室を借りています。
憩子が「ウーマンリブのハシリ」というだけあって、アヤノは「女性も仕事して自立すべき」という確固たる観念を持っています。
なので瑞希のような専業主婦の生き方に渋い顔をするのですが、一方で久美子にはこんな解釈も見せています。

「知っての通り、私は定年まで勤めたでしょう?疲れた身体に鞭打って、家に帰ってきたらすぐに洗濯機を回して台所へ直行する。小さな娘と話す間もない毎日だった。せっかくの土日だって一週間分の食料品の買い出しに始まって掃除に総菜の作り置きと休む間もなかった。」

これ、ちょっとリアルすぎません?
垣谷美雨さん、私の生活覗いてるのかと思っちゃった💦

「憩子が大きくなったらきっと理解してくれると思っていたけど、この前言われちゃったのよ。『母さんみたいに年中イライラしている母親は子供にとって最悪だった』って 」

切なすぎじゃないですか????
って、この娘の気持ち、私めっちゃくちゃ知ってるんだったわ…

そうです。アヤノは、まさに私の母親世代の「戦うワーママ」像にピッタリはまります。

無敵な感じがしますよね。

でも、今働くワーママの多くは、もう少し肩の力を抜いてるような、より生活を重視したタイプなんじゃないかな、と思っています。

とはいえ、母親世代のワーママは、今よりはるかに世間の理解も得られず、母親業も家事も仕事も、妬みも批判も何もかもを背負っていたのだと思います。

かつてのワーママの皆さんに敬意を表したくなります。

② 富士江
久美子が農地探しをして直接農家を訪ね歩いているところを、しっかり観察していて、久美子に話しかけてきた農家のおばちゃん。実はアヤノとは同級生で、アヤノに対するライバル意識が強い。

富士江自身は、ワーママというより、農家に嫁ぎ、そしてそのまま当然のように家庭内労働力として働いきたタイプです。

久美子に早く結婚を進めるなど、「田舎の農家のおばちゃん」のステレオタイプのような意見を言うようで、その説明はかなり説得力があり、だいたい久美子は富士江に言われたことにしたがいます。

人を見る目がある富士江は、久美子をとても評価しています。

「久美ちゃんはきちんと作業記録をつけて、観察して気が付いた細かいことまで書き留めてるじゃないか。ほんと感心だよ。あんたって人はね、目標を決めたら、それに向かってやり抜く精神力がある人間なんだよ」

こんなこと、一度でもいいから誰かに言われてみたいわ~

富士江なりに、若い久美子を応援する気持ちがたまりません。
それに、何より、作物の育て方を現場でビシバシ教えてくれる人というのは、ものすごくありがたいはずです。

③ 瑞希
瑞希も久美子の大学時代の先輩。博士課程へ進み大手新聞社に就職したにも関わらず、結婚して子どもを持ち専業主婦となった。今はブロガーとして生計を立てている。

瑞希の生き方は、割と今のワーママたちが目指すところ(?)なのかもしれません。私だってブログ書いてますし。

ただ、ブロガーあるあるなのかもしれませんが、日々ブログの中で更新される「丁寧な暮らし」とは裏腹に、現実の瑞希の生活はかなり荒れています。

ワーママと言いつつも、子どもは実家に預けていて、それも「イライラして手を上げてしまうよりはマシだと思って。」と言います。

こ、これは…。
闇しか感じないです…!!!
こっわ!

④ 静代
婚活パーティーで知り合いになったシンママ。パート2つかけもちしているが、崖っぷちで必死に結婚相手を探している。

なかなかしたたかな振る舞いを見せる場面もあるのですが、私にとっては、ここまで合理的に考えて、恋愛抜きで結婚するという生き方に驚きました。

たぶん、今までフワフワっと「なんだかんだで結婚する夫婦には恋愛感情があるもの」みたいな意識があったんだと思います。
主人公の久美子も同じ様な感じです。

静代は婚活パーティーで出会った、決して優良な相手とは言いづらい太田という相手と結婚することになり、その報告で久美子にこう言います。

「太田さんは善良で優しい人だよ。それだけでもう十分なの。借金まみれの暴力亭主と比べたら百万倍マシだもん。」

実際、子連れで再婚を考えるときは、恋愛よりまず生活のこと考えちゃうかもな…

このように、「農業」以外にも、ほんとに様々な生き方の女性が登場して、それぞれの立場での考え方を知ることができます。

ワーママ向け小説としては、かなり最高ランクです!

ちなみに、ここで紹介したワーママたち以外にも女性たちは登場して、それぞれの立場の本音がとても面白いです!

「真面目な努力家」はすごく大事だということ

上の章でも触れましたが、富士江が久美子を評価するように、久美子は真面目でしっかり者です。

無職で住む家すら失っても、「農業」という目標に向かってやるべきことをきっちりやっています。

農業大学校についても、きちんと下調べをして、アルバイトも農業につながるものを選んでいます。
農業大学校での学びも、きっちり生かされているし、資金がかなり限られている中で、やりくりしています。
農地を探すにしても、確実にめげそうな場面で、自分の足で一軒ずつ農家を回る努力もしているし、
販路を獲得するための準備で、ホームページの勉強もしています。
もちろん、富士江や瑞希にアドバイスをもらって上手くいった部分もあるのですが、彼女たちが久美子に協力するのは、やはり久美子が信頼できる働き者だからです。

「真面目にやる」ってこと、大人になってからちゃんとできてるかな?
副業でも、本業でも、趣味でも、なんでもいいから、本気で真面目にやりたいって気持ちになるわ。

まとめ

柿谷美雨の「農ガール、農ライフ」を紹介しました。
農業の始め方や、苦労がよくわかる、新規就農の指南書でもあり、一方で女性の働き方についてもめちゃくちゃ考えさせられる作品でした。

割と本気で、結婚観が変わります。

農業やりたい人もそうでない人も、またワーママでもそうでない人にもオススメできる逸品です!

このあと、しばらく柿谷美雨さんのレビューを続けます。

この本で、柿谷美雨さんという作家に出会えて本当に嬉しいです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!