【子育て小説レビュー⑥】とことん仕事に悩む「書店ガール6」

おしごと

今回も書店ガールのレビューです。

「書店ガール」シリーズもはや6冊目。すごいですね!

「子育て小説」からはかなり外れてきて、今回は特に仕事、働き方に悩む2人に焦点があたっています。

子育て要素は少ないんじゃないの?楽しめるかな?

大丈夫!!働くママ、パパなら、共感できるような悩みがたくさん出てくるよ!

そして、今回もネタバレ必須ですので、読んでから内容を楽しみたい方はご注意下さい!

書店ガール6は「働き方」小説!ワーママも共感…!

小規模書店の店長を務める彩加とラノベ編集長伸光の苦悩

今回の主人公は、彩加と伸光の2人です。
各章が2人の視線で交互に語られていきます。

そして、今回の2人の共通点は、「働き方の苦悩」「管理職の苦悩」かなと思いました。

マネジメントってほんと難しい…

まず、伸光。

編集者のラノベ担当の1編集長として、編集部をまとめていますが、社員のみんなが素直で従順なわけではありません。

編集者という、きつい仕事で生き残っている人材なので、それなりにアクの強い人間が多いのかなあ、と想像できます。

そして、今回は前作の「書店ガール5」で生まれた大ヒット小説「鋼の銀の雨が降る」のコミック化、さらにアニメ化、とメディアミックスされていく中で、異業種同士で仕事を進めていく難しさがとても丁寧に描かれています。

この辺りの、「管理職としての調整能力」や、「異業種との調整能力」など、子育て世代のワーママも今まさに苦労しているという人が多いのではないでしょうか。

同じ編集部の中でも仕事のやり方に違いがあり、それがひずみとなって、ミスに至ってしまうのに、業種が違えばやり方が違うのは当然で、さらに相手先の組織内でももちろん全員が一枚岩というわけでもない。

そして、異なる価値観の元で一つの作品を作っていかなければならない、というのは読んでいるだけでも、ものすごく大変そうなのが伝わってきます…

伸光、体壊すまでストレス溜め込んじゃダメよ〜!
そんなに無理しないでよ!!

自分が築き上げてきたものを壊す切なさ

一方で、彩加の方は、取手の駅ナカの小規模書店の店長として、小さい店舗なりに、工夫をして店づくりをしてきました。

アルバイトの采配やバイトの子たちにやる気を出してもらうための工夫もたくさんされています。

そんな店舗なのに、残念ながら閉店が決まってしまう…

「書店ガール5」で、彩加が店作りを頑張る様子をずっと応援してした立場としては、もう、同情というか、悲しみしかありません!

彩加と同じくらいへこみます。というか、彩加もめちゃくちゃにへこみます。そして、本のイベントで出会った「ビブリオマンシー」という書物占いで、思いがけず出会った言葉に大泣きしてしまうのです。

彩加〜!!辛いし、しかもそれを誰にも言えない状況なんてほんとに心労ヤバいよね…

私もこの文庫を読んだ時、状況は彩加とは全然違いますが、仕事の負担がかなりキツくて、でもその文句を職場の誰かに言うのも憚られるような環境でとてもしんどくて、「彩加も同じような重さなのかな〜」と勝手に共感していました。

子育て共働き夫婦の苦悩も出てきます

伸光と亜紀の共働き夫婦の状況も、少し描かれています。

2人の子ども光洋は、もう4歳(早い!)

伸光は夜1時に帰り、たまたま起きていた亜紀との会話で、「光洋は料理のできる男子にしたい」との話題が。

伸光は、なかなか料理が出来ていないから、耳が痛いというのです。

いや、伸光の1時帰りって、きっとしょっちゅうなんですよね…

完全に亜紀のワンオペモードじゃないですか!めっちゃ心配です。

伸光:管理職は自分の仕事とどう折り合いをつけるか

そして、無理した結果、伸光は血を吐いてしまいます。

そこで、ようやく亜紀から「もっと部下に仕事を任せるように」言われます。

いやぁ、亜紀もここでワンオペの愚痴も言わずに、あくまで旦那の体調を心配した上で、さらに部下との関係を維持するために働き方を変えるよう説得するの、めちゃくちゃ大人ですよね。

自分だったらこんな大人な対応、絶対できないです。

旦那の会社に文句言いに行きかねません。

でも大事な言葉がでてきます。

仕事の代わりはきくけど、私の夫もこの子のパパも代わりはいないのよ。ちゃんとわかってる?

これはサイコーに響きますね…。「私、ワンオペ辛い」より、本質的です。
何より、多くのママが自分自身にこの言葉をあてて、仕事時間を減らしているんですよね。
深い…

とにかく、亜紀の助言の甲斐もあって、さらに血を吐く場面を見た部下たちの気遣いもあって、伸光の仕事はしっかり分担されていきます。

しかし、一番重荷だった「鋼と銀の雨が降る」アニメ化の責任者を外れてほしい、とアニメ制作会社から要求があったことにはさすがにこたえます。

そのことを原作者である田中くんに伝えると、そこで田中くんは「だったら自分もシナリオ会議に参加します。そして小幡さん(伸光)も担当編集者として同席することを頼んでみましょう」と決意することに。そして田中くんは、自らの言葉で、アニメ制作会社のプロデューサーに説明し、見事に納得してもらえるのです。

気付けば、伸光の周りでは、若手がどんどん成長しています。
若手とか、子どもとかって、ほんとに気付かない間に勝手に成長することがありますよね。

で、上司や親って「え、いつのまにそんなこともできるようになってたの」と驚いて、そして少し肩の荷が下りてホッとするんですが。

実はそうやって成長できたのも、上司の働き方とか親の素振りとか、やっぱり近くで教える人、見せる人がいたおかげなんですよね。

子どもは勝手に成長するけど、そのときに自分のことも一緒にほめてあげたいなあ、と改めて思っちゃいます。

彩加:組織から独立を決心するまでのプロセス

彩加の方は、書店をたたむ作業を進める中で、地元静岡でおばさんの店を継ぐ話が再燃していました。

それも、知り合いのトルコパン屋の大田さんとともにパン屋兼ブックカフェをやる、というのがおばさんのアイデア。

ただ、太田さんは、会って話をしたときもそんな風には伝えてくれなかったので、彩加としては「自分と一緒に店をやりたくないんじゃ」と心配してしまいます。

ただ、それも改めて太田さんと会って話をすると、それぞれの考えもわかり(意外とおばさんも真面目に経営のことを考えていたり)、彩加は店を出すことを決意します。

太田と結婚するとか、付き合うとか、そういうことは決めずに、まずは「ビジネスパートナーとして一緒に店を経営する」

すごい決意ですよね!
読者の誰もが、ラブストーリーを予測していたのに、こんな風に決心するとは…!

やっぱ、彩加好き~!!

心に残った言葉

書店ガール初期の主人公西岡理子が、彩加の店を訪ねてきてくれた時の言葉。

大丈夫、宮崎さんはどこへ行っても、何をやっても、きっと頑張れる。それはここでの経験が力になっているから。他のスタッフもきっとそう。ここで頑張ったという記憶は、これからもきっとあなたを助けてくれるわ。

まず、理子が彩加のために、わざわざ都内から取手まで会いに来てれたってことが感動…!優しすぎです…!

でも、本当に「実際に会って直接話す」ことって、すっごく大事で、伸光のメディアミックス関連でも、原作者とイラストレーター、あるいはアニメ制作者が直接会って話をすることがいかに重要かが描かれています。
たとえ、それが編集者にとって、ハンドリングが難しくなったとしても、やっぱり人同士が直接会って、少しでも気持ちが動くと、仕事の仕方って変わる気がします。

「この人のためなら」って気持ちで仕事が進むことって、めちゃくちゃ多いですよね。

まとめ

書店ガール6、少し本文紹介が多すぎたかもしれませんが、一応レビューです。

仕事色の強めの本作、ワーママでも産前のことを思い返したり、いままさに同じような修羅場!って方もいるかもしれません。
あるいは、これからこの主人公たちと似たような苦境に立つ人もいるかもしれません。

そんなときに、主人公たちと周りの人たちのことを思い出して、少しでも支えになればいいなあと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!