こんにちは、うどんです。
今回は、前回の伊坂幸太郎さんの「チルドレン」の続編、「サブマリン」です。
前回も登場した武藤くんが陣内さんと仕事しながら、出会う少年たちのお話です。
しかし、「チルドレン」以上に子育て要素は少ないかもしれません。
10代の子って、もう一人の人間で、もちろん親も関わってくるんだけど、でも「親の子育て」が直接影響するのって、少ないのかも。
今回も、がっつりネタバレしてますので、ご注意下さい!!!
「悪いこと」とは何かを考えさせられる「サブマリン」
武藤くんが担当する2人の少年
今回武藤くんが担当しているのは、2人の少年です。
そして、武藤くんは今回も陣内さんと同じ職場で同僚として働いています。
とにかく切ない棚岡くん
無免許運転をして人をひき殺してしまった棚岡くん。
彼は、面接をしてもほとんどしゃべってくれません。
そして、彼は幼いころに両親を自動車事故でなくしているという、なんとも皮肉なめぐりあわせの子だったのです。
それだけではなく、小学生の頃には、仲良しの友人もまた自動車事故で、それもやはり少年によって殺されてしまうという経験をしています。
どれだけ不幸な設定なんだよ~
そして、その小学生の時の事件の犯人である少年を担当していたのが陣内さん、というわけです。
棚岡くんは、面接ではラストまでは全然まともに会話してくれないのですが、
この小学生の時の事件で、友人の栄太郎くんが亡くなった時は、当時の家裁担当者だった陣内くんのところへ直談判へ行ったり、中学生になってからも、栄太郎くんが大好きだったマンガの作者に「ラストまでちゃんと描け」と訴えに行ったりと、すごくアクティブです。
言ってしまえば、今回の棚岡くんが引き起こした無免許運転事故も、もとはこの栄太郎くんの事故を恨んで、復讐しようと考えていたからだったのです。
結果的に、違う人をはねてしまうのですが。
棚岡くんから終始ただよってくる悲壮感は、この長年の恨みみたいなものからきているのかもしれません。
価値観を揺さぶってくる小山田くん
さて、話の中心は基本的に棚岡くんなんですが、もう一人の少年、小山田俊くんもとてもよいキャラです。
天才ハッカーとでもいうべき、小山田くんはインターネット上で、他人を脅迫した人に対して、逆に脅迫するという、いたずらのような犯罪をして、武藤くんの保護観察下におかれています。
小山田くんは、たぶんとっても賢いのですが、武藤くんに対しては、とっても無邪気に接し、「悪」に対する感覚をガツンガツンと揺さぶってきます。
また、小山田くんのある意味特殊能力とでも言える、インターネットからの情報収集によって、武藤くんたちは犯罪を未然に防いだりします。
そして、新聞に陣内くんの名前が出たことによって、陣内くんに会いにかつての少年少女たちが家裁にやってきます。
なんだかんだ、人望厚いんだよね、陣内くん。
つながってくる人々
こうして、かつて栄太郎くんを殺してしまった犯人、若林青年も現れます。
当時、陣内くんにお世話になっていた彼も、わかりやすい「人殺し」ではなく、普通の善良な青年で、事故のことを深く深く反省し、人生を歩んでいっています。
その人柄を知れば知るほど、簡単に「人殺しなんて死刑にすればいい」なんて言えなくなってくるのです。それも、前途ある若者であればなおさら。
事件の裏側は見えてくるけど
そして、棚岡くんの事件には、色んな事情が絡んでいたこともわかってきます。
色んな裏事情がわかるたびに、「棚岡くんがやったことは悪いことじゃない!」と擁護したくなる気持ちになってしまうのですが、
武藤くんも立派な調査官として、それらの事情を受け止めていきます。
印象的だったのは、
若林青年をひき殺すことを思いとどまった棚岡くんが、別のジョギング中の男性を轢いてしまった原因が、散歩中の犬が急に道路に飛び出してきたから、というところ。
犬の散歩をしていたおじいさんは、武藤くんにそのことを話しながら「そのことをちゃんと話せば罪は軽くなるんじゃないか」と尋ねるのですが、武藤くんの回答は違いました。
「だからそもそも、無免許で運転するような生活だったことが問題なんです。僕たちの調査はそういう面を重視するので、もちろん犬が飛び出してきたかどうかもまったくの無関係とは言わないですけど」
「大きな影響はありません」
読者としては、事実が明らかになるのに、局面は変わらないので、なかなか不思議な感覚だわ~
ミステリーじゃないのよ。
名言
そして、今回の名言はやっぱり陣内さんです。
若林青年と武藤くんと飲んでるときに、いつもの調子で「調査官の仕事なんて細かくやったて意味はない。事件起こした奴らはみんな、厳しく罰しておしまいにすりゃいい」と吐き捨てます。
その後のセリフ。
「でもな、そういうわけにもいかねえんだ。」
「面倒臭えけどな、何でもかんでも機械的に厳しく罰していくわけにはいかない。何でか分かるか。」
「おまえみたいなのもいるからだよ」
もう、若林青年もろとも泣き崩れちゃうわ~!
このシリーズ、なんで伊坂幸太郎は家庭裁判所の少年犯罪を扱おうと思ったんだろう?とずっと不思議に思いながら読み進めていくんですけど、
この一言で、「そういうことか」と腑に落ちました。
まとめ
伊坂幸太郎の「サブマリン」をレビューしてみました!
子育てにはあまり近くないようで、でも子育てする中で、「自分の子が将来犯罪を犯したらどうしよう」「どうやって子どもを育てていけばいいんだろう」といった不安は付き物なのですが、
その不安がすこーし解消されるような、そんな小説でした。
そして、何より相変わらずの陣内くんと仲間たちの掛け合いがサイコーです!
伊坂節がきいてますよ~。
ぜひ、一度
最後までお読みいただき、ありがとうございました。