うどんです。
今回は奥田英朗さんの「家日和」を読みました。
こちらは、6本の短編集です。6つの話それぞれに家族があり、夫婦があります。
今回は「家族もの」ではあるのですが、「子育て」要素はあまりありません。
でも、夫婦の働き方や、家族の中の自分の立ち位置など、共働き世帯が常に悩むポイントが、物語の各所に散りばめられています。
奥田英朗「家日和」に出てくる6つの家族
「サニーデイ」:ネットオークション奥さま
部屋の掃除がてら、家のものをネットオークションに売ってみた奥様。
買い手がたくさんついて、値段が上がっていく楽しみ、
売買後に高く評価される喜び。
それがクセになって、家の中のいらないもの探しを始めて、
ついつい旦那の使っていない趣味のものにまで手を出してしまうという話。
今でもネットオークションで盛り上がるってあるんだろうけど、
最近ならメルカリとかのフリマアプリでしょうか。
売買も簡単だし、メルカリだとオークションほど価格を気にしなくて良いので、
主婦層はより気軽に利用できちゃいますよね。
旦那の趣味のものにまで手を出すとは、かなりの強者感もありますが、
子育てがひと段落したあとの主婦の心に空いた穴は相当大きいんだろうな、と改めて気づかされる作品。
「ここが青山」:専業主夫はあり?
この話が一番身近かもしれません。
旦那の会社が突然倒産して、仕事がなくなり、
その日の夜には、翌日から奥さんが元の職場へ復帰することが決まって、
旦那さんはナチュラルに専業主夫の道を進む話。
旦那さん、不慣れながらも家事をこなしていって、
奥さんもそれに文句も言わず、
日々子どものお弁当の具材に工夫をしては敗北する。
主夫業に目覚め、しかもそれが天職だとも思う旦那本人、ごく自然に働く奥さんという家族に対して、
元上司や元同僚、親族などは「早く仕事を探さないとね」と慰めたり気を使う。
この対比がとても面白くて、
どれだけ周りにせきたてられても、決してブレないのです。ここの夫婦。
自分で決めた生き方を信じられるって、すごく強い。
「家においでよ」:既婚者の憧れを詰めて
離婚後、奥さんが家具を根こそぎ持って行って、
とりあえず必要な家具をそろえなきゃ、と家具を買いに行くところから始まり、
家具選びから徐々に独身男性憧れの趣味部屋へと改装し、自分の趣味を取り戻していく話。
さらに、男の趣味部屋が居心地良すぎて、同僚たちの溜まり場になってしまいます。
同僚のほとんどは、幼い子どもがいる家持ちなんですよね。
おそらくほとんどのママ読者は「いやいや、さっさと家に帰って子育て協力しなよ」
とツッコミ入れたくなるでしょう。
でも、ツッコミ入れつつも、めっちゃくちゃ羨ましくなるんです。
すっごく楽しそうだんですよ、この趣味部屋。
私だって、いいレコードプレーヤーと音質のよいスピーカーシステムでレコード聴きたいですよ。
そう。結婚して、他人と暮らして、子どもも生まれたら、すべてのエネルギーを子どもに注いで、
自分のことなんて、はるか遠くに置いてきたような、そんな生活ですよね。
いざ、「自分のやりたかったこと」をしようとしても、それがなんだったのか思い出すのが難しい。
思い出してみても、なんだかもはや他人事のような、ワクワクできる自信がない。
ー「子育て」「結婚生活」を差し置いてまで、やりたいことなんてないー
どこかで自分に言い聞かせてるのかもしれません。
子どもはかわいいし、これからもずっと育てて大人になるまで見守りたいけど、
どこかの段階で、本当に自分がやりたいことを見つめ直す機会が欲しいなあ。
「グレープフルーツ・モンスター」:奥さまが求めるのは日々のスパイスだけ
これ、ちょっといやらしい話が出てくるんです。
で、そのネタになるのは、実在する若者なんですが、
主人公の奥様のすごいところは、いやらしい行動に出るとか、自分で処理するとかじゃないんです。
ただただ、「夢」で楽しむんです。
まあ、若者が来る日に、ちょっとオシャレしてみたり、ちょっと会話してみたり、
匂いをクンクンしちゃってはいるんですけどね。
でも、「ギリギリアウトー!!」みたいなことすらしません。
これってなに?著者の「うちの奥さんが浮気するっていうなら、これくらいかな?」っていう希望的観測なのかしら???
実際に、奥さんがこんなこと考えて、こんな夢見てるってなったら、旦那はどんな気分よ?
でも、実際に不倫とかめんどくさいことしたくない奥様たちは、こういうライトな妄想なんかで済ましちゃってそうですよね。
だって、それが一番楽チンなんだもん。
「夫とカーテン」:世のフリーランスが憧れる夫婦の形?
まず、奥様がフリーのイラストレーターって時点でめちゃくちゃ憧れます。
で、旦那は定職については、アイデアを思いついては後先考えずにすぐに実行してしまう、困ったタイプ。
奥様は、旦那が新しい仕事を始めると、しっかり旦那の仕事に口出しして、
よい方向に導いていきます。
旦那が不安定な仕事をしている時期は、奥様のイラストの仕事がはかどるという謎の仕組み。
急にひらめいちゃうし、発注者には高く評価されるし、いいことづくめです。
こんな風に進むフリーランス夫婦ならやってみたい。
いや、でもやっぱり怖いwww
「妻と玄米御飯」:余裕ある家庭の証、ロハスが羨ましすぎる
作家の旦那がいきなり売れ始めて、それまでパート勤めをしていた奥様が徐々にセレブ層へと意識を変えていく話。
セレブ層とはいえ、奥様は無駄遣いするわけでもなく、生活スタイルを見直す方向なので、ある意味とても健全ですよね。
とはいえ、いきなり「ロハス」とか「環境にやさしい」とか、家族が言い出すとなんだか疲れて窮屈になる…そんな気持ちにも大いに共感できます。
旦那がユーモア小説の題材として、ご近所のロハス夫婦を書いてしまいたい、つまり、自分の作品の中で、嫌味に感じる夫婦をディスってしまいたい、という願望。
最終的に、それは嫌味な夫婦ではなく奥様をディスることになると気付いた旦那…
最終的にものすごく愛を感じる行動をしてくれます。
夫婦がお互い、それぞれの立場の中で、新しい価値観を身に付けていくと、今までになかったすれ違いも出てきてしまう。
でも、はじめは受け入れがたいようなことでも、パートナーがやってると次第に受け入れる体制が整ってくることもありますよね。
家族がいるって、色んな価値観を許容する最初の第一歩のためにあるのかもしれません。
まとめ
奥田英朗さんの「家日和」、とっても楽しんで読みました。
最近までうどんが抱えていた閉塞感もなーんとなく主人公たちと共有しながら理解できた気もします。
子育てと仕事で疲れ切っている今だからこそ、「家族」「夫婦」を通して、自分のことを見つめなおしてもいいのかも…と思える、そんな小説でした。